Developer Advocateの仕事を振り返る

Taiji
Dec 17, 2020

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※本記事に登場するすべての企業、団体、個人に関する記述はすべて筆者の私見であり、決して何かしらの公式見解ではありません。

私は前職のMKI時代に同社のモバイルソリューションを推進するテクニカルエバンジェリストとして2年、そしてIBMへJoinしてIBM Cloudを推進するデベロッパーアドボケイトとして4年、合計で6年間この手の仕事へ関わってきました。

今回は一つの節目として、改めてテクニカルエバンジェリストやデベロッパーアドボケイトの仕事を振り返ってみたいと思います。

MKI時代

Node-RED UG Meetup

MKIは正式名称をMitsui Knowledge Industry/三井情報といいます。世間一般ではシステムインテグレーターと分類される会社ですが、その仕事は多岐にわたりました。私が抜けてから4年経つので、今は変わっているかもしれませんが、当時はシステムインテグレーションにとどまらず、ネットワークインテグレーション、データセンター事業、バイオインフォマティクス、新規事業開発、自社プロダクト・サービス販売、R&D、など。

特に、商社系SIerの力を発揮し、海外のプロダクトやサービスをいち早く輸入し国内展開することも多かったです。私は11年間この会社へ居ましたが、後半5年〜6年くらいはこのあたりの仕事をしていました。

その中に、モバイルを中心としたサービスがいくつかあり、当時MKI内では数少なかったモバイルアプリ開発エンジニアの私に、テクニカルエバンジェリストという役割として動け(厳密にはエバンジェリストという言葉では言われてません)、という流れになったわけです。

ここで、私が意識して活動したのは以下になります。

・会社のブランディング
- モバイルやWeb界隈で会社の知名度を上げる
- 私の活動をトリガーに案件の引き合いを作る
・私自身のセルフブランディング
- 社内外で「何かあればまずはこの人に声をかけよう」という状態を作る
- ネットワーキングを通じてOpportunityを生み出す
・会社へのフィードバック
- 外に見えている会社のイメージや、パートナー、顧客からの声を会社へ伝える

その結果として、ある程度の成果は見られたように思います。一方で、会社としてそういった活動に対する評価が難しかったのではないかと感じました。(あくまで私の主観です)
これらの活動は、多くの企業ではマーケティングまたは営業活動の一環として位置付けするしかなく、仕事としてのKPIを定めづらかったのかもしれません。

IBM時代

Node-RED Con Tokyo 2019

現在はIBMでデベロッパーアドボケイトとして仕事をしています。ここではIBM Cloudの利用を推進しています。つまり、IBM Cloudユーザーアカウントの増加、維持、利用促進になります。

IBMという会社は日本では特にシステムインテグレーターとしての顔が良く知られています。大手金融機関に代表される、エンタープライズ系のシステム開発のプロジェクトをリードする、そんなイメージが強いかもしれません。また、メインフレーム、ホスト系システムのイメージもあり、独自サービス系スタートアップやインターネット系企業の周辺のエンジニアからすると些かレガシーなイメージがあるのではないでしょうか。

我々IBMのデベロッパーアドボケイトは、そういった従来から根付いてきたIBMのクラシカルなイメージだけではなく、IBMにはクラウドサービスを提供する新たな側面も持っているんだということを、開発者のみなさんへ知って頂くよう活動をしています。

・会社のブランディング(IBM Cloudとして)
- レガシーなイメージからよりオープンなイメージに
- エンタープライズだけではなく学生やスタートアップにも
・私自身のセルフブランディング
- 社内外で「何かあればまずはこの人に声をかけよう」という状態を作る
- ネットワーキングを通じてOpportunityを生み出す
・ユーザーとの関係を強化する
- 学習コンテンツを提供する
- 開発者の課題を一緒に考える
・会社へのフィードバック
- 外に見えている会社のイメージや、パートナー、顧客からの声を会社へ伝える
- User's voiceを元にIBM Cloudに関する改善活動へ参加する

そのために、開発者の方へ向けて色々なワークショップやセミナーを開催します。オープンに参加者を募集して実施することもあれば、特定のパートナー企業やクライアント企業向けにクローズドで行うこともあります。200近いIBM Cloudのサービスは、とうていアドボケイトだけではカバーすることはできず、日々機能や更新情報のキャッチアップとの戦いです。

それでも、開発者コミュニティ、ユーザーコミュニティのみなさまのお力も借りながら、なんとかかんとか対象となるサービスの啓蒙活動を行っています。ユーザーの方々は、我々アドボケイトなんかよりもたくさんIBM Cloudのサービスを使ってくれているので、とても深い知見をお持ちだったりします。私も日々こういった方々から学ぶことが多いです。

SIerからプラットフォームベンダー(ここではIBMを敢えてこう位置づけます)へ移って完全に異なったことといえば、アドボカシー(エバンジェリズム)対象となるサービスが固定されているところです。これは、前職での活動に対するオーディエンスがWebやモバイルの開発者(開発会社)全般であったのに対し、現職ではCloud(特にPaaS)ユーザーという特定があるので、活動のKPIが立てやすくなるという特徴があります。
会社関係なく、例えば以下のようなKPIが考えられるでしょう。

対象サービスのユーザーアカウント数(新規、解約、継続、利用、放置など)
対象サービスに関するイベントの企画、実行数
イベントごとの開発者へのリーチ数
対象サービスに関するコミュニティへの関与数
対象技術エリアに関するOSSでのコントリビュート数

サポートチームとの棲み分け

たまにあるのが、エバンジェリストやアドボケイト(つまりDevRelに関わっているロール)がテクニカルサポートチームと思われてしまうことです。もちろん、我々も必要に応じて可能な限り開発者のみなさまのテクニカルな問題に対してサポートは行っております。一方で、契約関連、課金関連、アカウント管理関連など、アドボケイトチームでは対応が難しい領域もあります。

エバンジェリストやアドボケイトの悩ましいところはこういった問題についても、我々が窓口だと思われてしまうところです。もちろん、我々も所属会社の一員ですし、開発者の方々に対してアドボカシーを行っているので一旦お聞きして然るべき部門へお繋ぎいたします。ただ我々はその分野については独自で回答を行うことができず、つなぐことしか出来ないので、我々を通すことで我々がボトルネックになってしまうケースが発生する場合があるのが、非常に申し訳ないなと感じます。

また、よくあるメッセージとして、「本当にサポートが必要なユーザーは有償の契約を」といったものを聞きますが、本当にサポートが必要なユーザーってなんでしょうか?アカウントの種類に関わらず、少なくともレジストレーションして正式なユーザーとして使ってくれている以上、サポートが必要なのは自明だと思います。我々ベンダーは、有償によりより高いサポートサービスを提供するのは良いとして、一方でアカウントの種類や課金状況に関わらず、一定レベル以上のサポートを提供すべきだと思います。

ここについては、私自身上手な立ち回りがまだ出来ていないのだと思うので、もっとスムーズにユーザーのみなさまへストレスを感じさせないよう努力できたらと思っております。

海外とのコラボレーション

これは前職時代もありました。前職のMKIの親会社は総合商社の三井物産ですから、グローバルな案件に関わることも少なくなかったですし、海外ブランチのメンバーとのコラボレーションもありました。ただし、それがエバンジェリストとしての仕事だったかというとちょっと違うかもしれません。DevRelCon Londonなどで登壇した際に話した内容は、海外の開発者に対してMKIってこんな強みを持った開発会社だからきっとあなた達が日本でビジネスする場合には力になれるよ、的な内容だったのですが、これは少しDevRel的かもしれません。

DevRelCon London 2016

現職のIBMでは所属組織自体がグローバル、つまりUSのチームになりますので、必然的にWorldwideでの活動になります。IBM Cloudのユーザーは世界中に存在するので、他国とコラボレーションしてハンズオンワークショップを行うなんてことも良くやりました。
また、OSSのコントリビュートという観点でもGlobalチームというのは強力です。私がコントリビューターとして参加しているNode-REDなどは、OSSですが主たる開発メンバーがIBM UK(Hursley)にいますので、年に一度くらい日本のユーザーの声をまとめて届けに行き、ディスカッションして反映してもらうというような活動もしています。

With Node-RED Creators at IBM Hursley Office

まとめ

つまるところ、テクニカルエバンジェリストやデベロッパーアドボケイトの仕事として「あるべき姿」とはどんなものなのか?と自問した時に出てくる答えは「DevRelを上手に行う」のではないかということです。

DevRel、つまりDeveloper Relationsは、ベンダーとそのユーザー(主に開発者)との良好な関係性を構築し、ベンダーそのものやベンダーが提供するサービスを使ってもらい、好きになってもらうためのアプローチです。そのためには、もしかしたら前述のサポートの領域にも踏み込む必要があるのかもしれませんし、前職のようなSIerにおいてももっともっと確立したポジションとして存続すべきなのかもしれません。

私がDevRelに関わり始めて丸6年。DevRelという言葉が世に広まりつつあり、膨らんでいくこの業界で、改めてデベロッパーアドボケイトとしての立ち位置、役割を見直す時期に来ているのでは無いかと思い、今回つらつらと振り返りのブログを書いてみました。

みなさまのDevRel活動において何かしらの気づきなどになれば幸いです。
ではでは!

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Written by Taiji

Datadog Senior Developer Advocate | Ex-OutSystems Dev Community Advocate | Ex-IBM Dev Advocate | Microsoft MVP | 筑波大学、名城大学非常勤講師 | 記事は個人の見解であり、所属する組織とは関係ありません。

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